『ギブミー・チョコレート』(著:飯島敏宏 出版:角川書店)を読んだ。

 ウルトラシリーズに携わった往年の監督・飯島敏宏の自伝的小説。幼稚園時代から中学入学まで、戦争に翻弄されながらも逞しく生きた少年たちが描かれている。

 小説内では自身の名前は山崎弘。

 飯島敏宏はキリスト教系の幼稚園出身。教会にはアメリカ生まれの日系二世の牧師がいたが、いつの間にかそれが日本人の牧師に交代してしまうところから既に戦争の足音が聞こえてきている。

 丁寧語を使い、句読点を割とこまめに使った緩やかな筆致で、まるで飯島敏宏本人が目の前でゆっくり語ってくれているような気持ちになった。娯楽作家と称するだけあって、ユーモラスな描写や展開が時おり顔をのぞかせる。「戦時中は暗い暗いと言われるけど、そんなことはないんだ。子どもたちは明るく強く生きていたんだ」という主張も受け取れた。

 小学校では、画家志望のおおらかな榊(さかき)先生が最初の担任だったが、軍国主義の大久保先生に代わってからが大変。今では考えられない程の超スパルタ軍事指導が展開される。あんなに優しく、柔和な顔の飯島敏宏が子ども時代はこんなにも過酷な教育を受けていたのか・・・と圧倒される程。

 那須戦時疎開学園での生活を経験。そして大久保先生が出征した後は、ガダルカナル戦線で悲惨な戦場経験をした富中先生が着任。過酷な指導は続くが、親友たちと一緒に逞しくこなしていく。軽快なテンポや言い得て妙な比喩のせいか、読んでいても悲壮感があまりなく、そこまで深刻にならなくて済んだ。

 中学受験のために東京に帰ってきたら、東京大空襲に遭ってしまう。ここでただひとり犠牲になったのが、よりによって親友のチュウだった。現場をはっきり見た訳ではないが、飯島敏宏の見解によると、学校での教えを忠実に守り、落ちてきた焼夷弾への対処法を実践したところ、新型の焼夷弾だったため威力が凄まじく却って死を招く結果になってしまったという。他の生徒同様、少しでも遠くへ走り逃げていれば助かったかもしれないのに。。。

 あとがきには、同窓会のときの思いが書かれている。曰く、焼夷弾の対処法を教えた富中先生に対し、チュウの無念を訴えたかった、つまり、「あなたの教えのせいで親友が亡くなったのだ」と言いたかったとのこと。

 最後まで読み終えて気付いたことがひとつ。
 全体的にチュウの勇敢な活躍譚が多く描かれるが、最後の最後にチュウの死を迎えて終わる。あとがきでも言及。「主題は、『少国民』です」としているが、上記のことからして、実はこれはチュウに捧げた小説であり、チュウへの鎮魂歌だったのだ。

 因みに、終戦を機にコペルニクス的転換を迎え、それまでの教育を全否定するような戦後教育を受け、教科書の墨塗り等、屈辱的な思いをしたことも書かれていた。なるほど、これが自身の作家性の中に二律背反的な姿勢を生み出した元なのか。

 タイトルこそ甘そうだが、内容はまったく甘くない。むしろ辛い。
 飯島監督回をより深く味わうための重要なスパイスとなった。

cf.)バルタン星人総論についてはこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/6859305.html

cf.)『ウルトラマン』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/6642931.html

[参考]
『ギブミー・チョコレート』著:飯島敏宏 出版:角川書店

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